
「肌色って、どんな色なんだろう?」
そんな疑問を感じたことはありませんか。
かつて絵の具やクレヨンに当たり前のように存在していた「肌色」という名前。
しかし近年では、その表記を見かける機会が減り、代わりに「うすだいだい」「ペールオレンジ」「ベージュ」といった名称が広く使われています。
その背景には、多様な肌の色を尊重する社会の変化があります。
「肌色=一つの色」という考え方が見直され、教育やデザインの現場でもより中立的な色名への転換が進んでいるのです。
この記事では、「肌色」という言葉の意味や歴史、名称変更の理由、そして代わりに使われる色の違いをわかりやすく解説します。
さらに、場面ごとの使い分け方や言葉選びのポイントも紹介します。
- そもそも「肌色」とは?意味と由来を整理
- 「肌色」が使われなくなった理由
- 「うすだいだい」「ペールオレンジ」「ベージュ」の違いとは?
- 使い分けのコツ|場面別に選ぶおすすめ表現
- 肌色に関する誤解と注意点
- まとめ|“肌色”は固定の色ではなく、多様性を表す言葉へ
そもそも「肌色」とは?意味と由来を整理
日本での「肌色」の始まりと歴史
「肌色(はだいろ)」という言葉は、戦後の日本で生まれた比較的新しい色名です。
昭和30年代ごろから絵の具やクレヨンのカラーバリエーションに採用され、
「日本人の標準的な肌の色」として教育や印刷の分野で広まりました。
当時の色見本帳では、「淡いオレンジ寄りの明るい色調」として定義されており、
日本工業規格(JIS)でも「肌色=明るい黄赤色」と分類されていました。
つまり、「肌色」は“人間の肌を表す代表的な色”として誕生したものの、
それは特定の肌の色を基準にした文化的な表現にすぎませんでした。
肌色=一つの色ではない
現代の視点から見ると、「肌色」は単一の色を指す言葉ではありません。
人によって、あるいは国や地域によって、肌の色はさまざまです。
美術的に見ると、肌の色は「オレンジ系」「ピンク系」「ベージュ系」などの幅広いトーンの集合体です。
たとえば、日本の絵の具メーカーが定義していた“肌色”は、実際にはうすい橙色(だいだいいろ)に近いものでした。
つまり「肌色」という言葉は、特定の色番号ではなく、“人の肌を思わせる色”の総称として使われてきたのです。
このため、今でも人によって思い浮かべる色味が少しずつ異なります。
「肌色」という言葉が持つやわらかい印象
興味深いのは、「肌色」という言葉自体がどこか温かみや親しみを感じさせる点です。
色としての定義は曖昧でも、「肌」「ぬくもり」「人とのつながり」といった感覚を呼び起こす、情緒的な響きを持っています。
しかしその一方で、多様性が重視される現代では、「誰の肌の色なのか?」という問いが生まれました。
これが、次章で紹介する「名称変更の流れ」につながっていきます。
「肌色」が使われなくなった理由
かつてはごく自然に使われていた「肌色」という言葉。
しかし現在では、絵の具・クレヨン・ファッションなどの分野でその名称はほとんど見かけなくなりました。
その背景には、社会全体で進んだ多様性への配慮と表現の見直しがあります。
多様な肌の色を尊重する時代へ
1990年代後半から2000年代にかけて、日本でも「肌の色は一色ではない」という考え方が広まりました。
「肌色」という表現が、ある特定の肌の色だけを基準にしているのではないか——そんな声が教育現場やメディアの中から上がったのです。
たとえば、海外では人種や文化の違いに応じてさまざまな肌の色が存在します。
それにもかかわらず、「肌=薄い橙色」と決めつけるような表現は、無意識のうちに一部の人の肌を“標準”とする偏りを生んでしまうことがあります。
このような背景から、学校教育や子どもの教材でも「肌色」という名称を見直す動きが加速しました。
「より中立的で、誰の肌の色も否定しない表現」を目指した取り組みです。
文部科学省・メーカーによる表記変更の流れ
2000年代初頭、文部科学省は全国の教育機関に対して、教材における色名の見直しを推奨しました。
これを受けて、国内の主要メーカーも順次対応しています。
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文具協会(2002年):製品表示ガイドラインに基づき、「肌色」表記を避ける方向で調整
これらの動きは、決して「肌色という言葉を禁止する」ものではなく、
「多様な肌の色を前提にした社会に合わせて表記を見直す」というポジティブな変化として受け止められています。
現在の教材や画材では、「うすだいだい」や「ペールオレンジ」といった代替色名が一般的になり、
子どもたちも自然にその言葉で色を認識するようになりました。
世界でも広がる“肌色”表現の変化
この流れは日本だけでなく、海外でも同様に起きています。
英語圏では「skin color」という言葉よりも、「peach(ピーチ)」「tan(タン)」「beige(ベージュ)」などの具体的な色名が使われることが増えました。
また、グローバル企業では「nude(ヌード)」という言葉を使う場合も、
単一のベージュではなく、複数の肌トーンに合わせたカラーバリエーションを展開するのが一般的です。
たとえば、コスメブランドでは「nude tone」を5~10種類展開するなど、
「肌色=ひとつではない」という考え方がすでに浸透しています。
言葉を変えることは、社会をやわらかくすること
「肌色」がなくなったことを“時代の変化”として寂しく感じる人もいるかもしれません。
しかし、これは言葉を排除するのではなく、より多くの人が安心して使える表現に進化したという前向きな動きです。
言葉を変えることで、無意識の偏りをやわらげ、
誰もが自分の肌の色に自信を持てる社会をつくる——それが、この変更の本質といえるでしょう。
「うすだいだい」「ペールオレンジ」「ベージュ」の違いとは?
現在、「肌色」という表記の代わりに広く使われているのが、
「うすだいだい」「ペールオレンジ」「ベージュ」 の3つの色名です。
これらは似ているように見えて、それぞれ由来・用途・印象が異なります。
どの場面でどの色を使うべきか、順に見ていきましょう。
① うすだいだい:教育現場での標準表現
「うすだいだい」は、文部科学省や教育関係の教材で正式に採用された名称です。
絵の具やクレヨンの色名として、「肌色」の代わりにもっとも多く使われています。
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由来:もとの「だいだい色(橙色)」を淡くした日本語表現
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色味:赤みを抑えた明るいオレンジ系
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印象:やわらかく、温かみのあるトーン
子どもにも覚えやすく、違和感のない自然な名前であることから、
学校教材や美術の授業では「うすだいだい」が標準語的な位置づけになっています。
特に、「人の肌を塗るときの基本色」としてわかりやすく、教育現場で浸透しました。
② ペールオレンジ:デザイン・印刷分野で使われる国際的表現
「ペールオレンジ(Pale Orange)」は、
デジタルやデザインの世界でよく使われる、英語由来の色名です。
「pale」は「淡い・控えめな」という意味で、
明度が高く彩度の低い、やわらかなオレンジ色を指します。
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由来:英語の「Pale Orange」=淡い橙
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色味:明るいオレンジ寄りで、デジタル表現に適する
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印象:清潔感があり、自然光に近いトーン
グラフィックデザインやWeb制作などでは、
「肌色」に代わる表現として最も使いやすく、
色コード(#FFDAB9など)で明確に指定できる点が特徴です。
また、海外でも通じるため、国際的な作品や資料制作では「ペールオレンジ」が適しています。
③ ベージュ:ファッション・日常生活で馴染む定番色
「ベージュ」は、服飾やインテリアなどで広く使われている中間色で、
黄みがかった薄茶色を指します。
もともとはフランス語の「beige(ベージュ)」に由来し、
「未加工の羊毛の色」や「自然な生成り色」という意味を持ちます。
ファッションやコスメの世界では、「肌に馴染む自然な色」として人気が高く、
「肌色系」という言葉の代わりにベージュが使われることが多くなっています。
💡3つの違いを一目で整理
| 色名 | 主な分野 | 色味の特徴 | 印象・使われ方 |
|---|---|---|---|
| うすだいだい | 教育・絵の具・クレヨン | 明るい橙色、温かみあり | 教材・子ども向けの標準色 |
| ペールオレンジ | デザイン・印刷・Web | 淡いオレンジ、光に近い色 | 海外対応・デジタル向け |
| ベージュ | ファッション・日常 | 黄みがかった落ち着いた色 | ナチュラル・上品な印象 |
使い分けのコツ|場面別に選ぶおすすめ表現
「肌色」という言葉が使われにくくなった今、
どの言葉を選べば良いかに迷う人も多いでしょう。
ここでは、教育・デザイン・日常の3つの場面に分けて、
それぞれに適した表現をまとめました。
シーン別のおすすめ表現一覧
① 教育現場では「うすだいだい」が安心
子どもが使う教材や図画工作では、「うすだいだい」が最も推奨されています。
「肌色」という言葉に代わる形で公式に採用されたため、
先生や保護者の間でも自然に定着しました。
「肌を塗るときは、うすだいだいを使おうね」といった形で、
違和感なく教えられる言葉として機能しています。
② デザインや印刷では「ペールオレンジ」
デザインやWeb制作では、「ペールオレンジ」が最も扱いやすい色名です。
デジタルデータ上ではRGB・HEXコードで指定できるため、
色の再現性が高く、世界共通の表現として認識されます。
特に広告・イラスト・パッケージデザインなどでは、
「肌の柔らかさ」や「温もり」を表現するために
ペールオレンジ系がよく用いられます。
たとえば、
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#FFDAB9(ペールオレンジ):淡く自然なトーン
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#FFE4C4(ビスク):ややピンク寄りでやわらかい印象
こうしたコードを明示して使えば、「肌色に近いが特定しない」色合いを再現できます。
③ 日常やファッションでは「ベージュ」
服・コスメ・インテリアなど日常的なシーンでは、
「ベージュ」がもっとも自然で柔らかい表現です。
「ベージュのファンデーション」「肌馴染みのいいベージュ」といった言葉は、
誰にでも伝わりやすく、相手の肌を限定しない中立的な響きを持っています。
また、ベージュはグラデーションも豊富で、
淡い「ライトベージュ」から深みのある「モカベージュ」まで幅広く使えます。
TPOを問わず使える万能な言い換え表現といえるでしょう。
💡相手や文脈に合わせて柔軟に選ぶ
「肌色」という言葉を完全に避ける必要はありません。
ただし、文章や会話の中では次のように少し言い換えるだけで印象がやわらかくなります。
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「肌に近い色」
-
「淡いオレンジ系の色」
-
「自然なトーンの色」
このような表現なら、色を限定せず伝えることができ、
誰に対してもやさしく響きます。
肌色に関する誤解と注意点
「肌色」という言葉は、今ではほとんどの製品から姿を消しました。
そのため、「肌色は使ってはいけない言葉なの?」と感じる人もいるかもしれません。
しかし実際には、肌色という表現そのものが禁止されたわけではありません。
ここでは、よくある誤解と、その背景にある考え方を整理しておきましょう。
「肌色を使ってはいけない」は誤解
まず知っておきたいのは、「肌色」という言葉を使うことが法律やルールで禁じられているわけではないということです。
文部科学省やメーカーが表記を変更したのは、禁止のためではなく、
「誰にでも当てはまる中立的な言葉に置き換えよう」という配慮的な判断でした。
たとえば文章や会話の中で、
-
「肌色のセーター」
-
「肌色の絵の具で顔を塗る」
といった表現をしても、文脈が限定的であれば問題はありません。
ただし、公共の場や教育など「多様な人が関わる環境」では、
より幅広く受け入れられる言葉(うすだいだい・ベージュなど)を選ぶほうが望ましいとされています。
つまり、「肌色を完全に排除すべき」ではなく、
場面に応じて柔軟に使い分けることが大切なのです。
国や文化によって“肌色”の概念は異なる
「肌色=この色」と一括りにできない理由のひとつが、
国や文化によって肌の色の捉え方が異なる点です。
たとえば欧米では、「peach(ピーチ)」「tan(タン)」「almond(アーモンド)」など、
肌をイメージさせる色名が複数存在します。
またコスメ業界では、「nude(ヌード)」という言葉を使う際にも、
あらゆる肌トーンに対応した多色展開が一般的です。
つまり、海外では「肌色=単一のベージュ系」ではなく、
多様なトーンを包含する概念として捉えられています。
日本でも近年は、「人それぞれの肌の色を表現する」という考え方が広まり、
教育やメディアの世界でも少しずつその意識が浸透してきました。
言葉を使うときに意識したいこと
「肌色」を使う・使わないという二択ではなく、
どんな文脈で、誰に伝えるのかを意識することが重要です。
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具体的な色を指す場合:うすだいだい・ペールオレンジ・ベージュなどの名称を使う
-
情緒的・比喩的に使う場合:「肌のような色」「ぬくもりを感じる色」など自然に言い換える
このように工夫すれば、誤解を招かずに表現の幅を広げることができます。
また、SNSや発表資料など公に残る形で発信する場では、
誰にでも伝わる言葉を選ぶことが、結果的に誤解やトラブルを防ぐことにつながります。
💬 小さな配慮がやさしい表現をつくる
言葉や色の名前は、時代や社会の価値観とともに変化します。
「肌色」がなくなったのは、“排除”ではなく、“共感のための進化”です。
ほんの少しの言い換えが、誰かを不快にさせないやさしさにつながる——
それが、現代の「肌色」という言葉が教えてくれる一番大きな意味かもしれません。
まとめ|“肌色”は固定の色ではなく、多様性を表す言葉へ
「肌色」という言葉は、長い間“ひとつの色”として親しまれてきました。
しかし今では、その意味が少しずつ変わりつつあります。
かつての肌色は、昭和の時代に定着した「標準的な日本人の肌の色」でした。
けれども、社会の多様化が進むなかで、「肌は一人ひとり違っていい」という考え方が広がり、
その結果として「うすだいだい」「ペールオレンジ」「ベージュ」などの表現が生まれました。
こうした言葉の変化は、単なる名称変更ではなく、
“誰もが心地よく表現できる社会をつくる”という価値観の反映です。
肌色という言葉を使うかどうかは、正解・不正解で分けられるものではありません。
大切なのは、相手や文脈に合わせて思いやりのある言葉を選ぶこと。
それが結果的に、よりやさしいコミュニケーションにつながります。
💡まとめポイント
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「肌色」はかつて標準的な色として定着したが、今は多様性を重視して見直されている
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「うすだいだい」「ペールオレンジ」「ベージュ」などが現代の主な代替表現
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言葉を変えることは、排除ではなく尊重のための進化
-
場面に応じて、相手に伝わりやすい表現を選ぶのがベスト
おわりに
色の名前は、時代とともに変わり続けます。
「肌色」がやさしい形で生まれ変わったように、
言葉もまた、人に寄り添うように進化していくものです。
あなたが次に「肌色」という言葉に出会ったとき、
そこに込められた“やさしい多様性”を感じ取ってみてください。